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【解説】社会保険はいつまでに手続きをしたらよいのか?
会社を設立してから多くの手続きがありますが、社会保険の加入手続きの作業もその内の1つです。
手続きをしない場合、本来よりも多くの社会保険料を払ってしまったり、罰金が発生してしまったり、会社の社会的信用を落としてしまう可能性もあります。
また、従業員を採用したときに行う手続きの中には期限が決められているものもあり、期限までに手続きを終えないと、社員の労働環境や生活に支障をきたす場合もあるので、より迅速な対応が求められます。
しかし、「原則手続きはどの時期に行えばいいのか」「何の手続きをしたらよいのか」「手続きには何が必要なのか」と思う方も多いでしょう。
この記事では、社会保険とは何なのか、加入する理由や加入する条件などの詳細を解説します。
Contents
社会保険は危機に備える公的な保険
社会保険とは、病気やケガ・失業など、生活する上での危機に備える公的な保険のことです。
以下の5種類はまとめて広義の社会保険と呼ばれることが多く、健康保険・厚生年金保険・介護保険を狭義の社会保険、雇用保険・労災保険は労働保険と呼びます。
- 健康保険(医療保険):民間企業に勤めている人、その民間企業に勤めている人の家族が加入する医療制度
- 厚生年金保険(年金保険):厚生年金保険が適用される企業の会社員や公務員が加入する公的な年金制度
- 介護保険:介護が必要な人が給付金やサービスを受けられる公的な社会保険
- 雇用保険:失業時や就労継続困難の際に給付金やサポートを受けられる保険
- 労災保険(労働者災害補償保険):業務や通勤中のけがや病気、死亡などに対して補償を受けられる保険
社会保険の加入義務がある事業所
社会保険の加入には、加入の義務がある強制適用事業所とそうでない事業所があります。
強制適用事業所に該当する事業所は、被保険者となる従業員を必ず社会保険に加入させなければなりません。
強制適用事業所にあたる事業所とは、被保険者が1人以上いる法人事業所、また常に5人以上を雇用している個人事業所です。ただし、5人以上の雇用をしている個人事業所でもサービス業の一部や農林水産業、畜産業などは強制適用事業所には含まれません。また、学校法人事業所の場合は、社会保険ではなく私立学校教職員共済制度に加入します。
強制適用事業所に当てはまらない事業所でも任意適用事業所として、社会保険に加入するという方法もあります。
社会保険の適用を除外されるのは、日雇い、2ヶ月以内の期間を定めて雇用される人、所在地が安定しない勤務先に勤める人、4ヶ月以内の季節的業務に雇用される人、6ヶ月以内の臨時的事業に雇用される人などが該当します。
ただし、日雇いや2ヶ月以内の契約、季節的業務、臨時的事業に就いている人でも、継続して雇用される見込みがある場合には被保険者となります。
このように、一部の業種と短時間労働者を除き、継続的に事業所に雇われている人のほとんどは社会保険に強制加入になるといえるでしょう。
社会保険に加入しないとどうなるの?
社会保険に加入すべき事業所が加入しないまま放置していると、思わぬリスクを負うことになってしまうことも少なくはありません。
会社設立後には早急に社会保険への加入手続きをするべきですが、万が一、遅れた場合だと次のようなリスクが挙げられます。
・最大で過去2年分の保険料を追徴される
・損害賠償を請求される可能性がある
国や地方自治体の助成金を受給できない場合がある
社会保険に加入していない場合、国や地方自治体の助成金を受給できない場合があります。
さらに、社会保険の適用事業者にもかかわらず、加入していない場合、健康保険法第208条によって罰金の支払いの義務が科される恐れがあります。このように関係法令を遵守していないと、助成金の申請条件を満たしません。
助成金の受給を検討しているのであれば、社会保険の加入手続きはきちんと済ませておきましょう。
最大で過去2年分の保険料を追徴される
社会保険の適用事業者なのに加入していない場合、年金事務所の調査によって未加入であると発覚することがあります。その場合、最大で過去2年分の社会保険料が追徴されます。
その間に退職した従業員がいれば、会社が全額負担しなければならなくなるので、本来よりも負担額が増えるでしょう。
また、健康保険法第208条によれば、加入義務があるにもかかわらず社会保険に加入していない場合、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処されると記載されています。
これらのリスクを踏まえると、適用事業者であれば会社設立後は速やかに社会保険に加入すべきだと言えるでしょう。
損害賠償を請求される可能性がある
社会保険に未加入である場合、従業員から損害賠償を請求されるケースが見られます。
例えば、厚生年金保険料を支払っていなかったら、従業員が将来もらえる年金額は減少します。会社に社会保険への加入義務があった場合、会社側の過失となってもおかしくありません。
社会保険に未加入の状態は、従業員にとって不利に働くことも多々あります。損害賠償を請求されると、会社の社会的信用も危うくなってしまいます。
社会保険に加入するときの条件
従業員は、週の所定労働時間が常時雇用されている従業員の4分の3以上かつ1ヶ月の所定労働日数が常に雇用されている従業員の4分の3以上である場合は、社会保険に加入しなければいけません。
すべての法人の事業所は、国が法律で定めた保険に加入しなければならず、事業所ごとに保険が適用されます。
適用事業所という社会保険の適用対象となる事業所があり、強制適用事務所および任意適用事業所の2種類に分けられます。以下よりそれぞれ紹介していきます。
強制適用事業所
強制適用事業所とは、事業主や従業員の意志に関係なく、法律により加入が定められている事業所のことです。
強制適用事業所にあてはまる事業所は次の通りです。
・常に従業員を1人以上使用する法人の事業所
任意適用事業所
任意適用事業所とは、強制適用事業所とならない事業所で厚生労働大臣の許可を得て、健康保険・厚生年金保険の適用となった事業所のことです。
事業所で働く半数以上の人が適用事業所になることに同意し、管轄の年金事務所か事務センターで事業主が申請を行います。
申請が受理され、厚生労働大臣の認可を受けると適用事業所になれ、加入義務がある従業員全員の健康保険・厚生年金保険への加入が必須になりますので、同意しなかった従業員も、加入義務がある場合は加入しなければならないことになります。
保険の給付や保険料は、強制適用事業所と同様です。
なお脱退する場合は、被保険者の4分の3以上の同意が必要です。同意を得て、事業主が脱退の申請を行い、厚生労働大臣の許可を受けることで適用事業所の脱退が可能になります。
社会保険の加入手続きは??
事業所の社会保険への加入手続きは、日本年金機構の事務センターか年金事務所で手続き可能です。
以下の表は、事業所別に加入手続きの提出期日や提出書類、提出先をまとめたものです。
事業所 | 提出期日 | 提出書類 | 提出先 |
強制適用事業所 | 会社を設立してから5日以内 | ・健康保険、厚生年金保険、新規適用届・健康保険、厚生年金保険、被保険者資格取得届・健康保険、被扶養者(異動)届・健康保険、厚生年金保険、保険料口座振替納付申出書・その他各種添付書類 | 事務センター管轄の年金事務所 |
任意適用事業所 | 半数以上の従業員の同意を得た後 | ・健康保険、厚生年金保険、任意適用申請書、同意書・健康保険、厚生年金保険、被保険者資格取得届・健康保険、被扶養者(異動)届・健康保険、厚生年金保険、保険料口座振替納付申出書・その他各種添付書類 | 事務センター管轄の年金事務所 |
参考:日本年金機構「健康保険・厚生年金保険 新規加入に必要な書類一覧」
社会保険の手続きは事務センターか管轄の年金事務所に提出する形が一般的ですが、近年は電子化により、電子申請での加入手続きも可能になっています。
なお、2020年4月より、資本金等の額が1億円を超える特定の法人・相互会社・投資法人・特定目的会社は、電子申請での手続きが義務づけられているので注意しましょう。
加入に必要な書類
社会保険に加入するには、次の書類の作成が必要です。
強制適用事業所の場合に必要な書類
- 健康保険・厚生年金保険、新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険、被保険者資格取得届
- 健康保険・被扶養者(異動)届
- 健康保険・厚生年金保険、保険料口座振替納付申出書
- その他各種添付書類
任意適用事務所の場合に必要な書類
- 健康保険・厚生年金保険、任意適用申請書、同意書
- 健康保険・厚生年金保険、被保険者資格取得届
- 健康保険・被扶養者(異動)届
- 健康保険・厚生年金保険の保険料口座振替納付申出書
- その他各種添付書類
また、事業所によって添付書類の内容は異なりますので、当てはまる事業所にあわせて書類の用意をしましょう。
健康保険・厚生年金保険新規適用届には次の書類も必要です。
事業所 | 添付書類 |
法人事業所 | ・法人(商業)登記簿謄本法務局のホームページから交付請求が可能 |
事業主が以下である場合 ・国 ・地方公共団体 ・法人 | ・法人番号指定通知書のコピー国税庁法人番号公表サイトで確認した法人情報のコピーでも〇 |
強制適用事業所にあてはまる個人事業所 | ・事業主の世帯全員の住民票(原本) |
加入手続き期限と提出先
前述の通り、社会保険への加入手続きの期限は、会社設立してから5日以内に行わなければなりません。
手続きは、必要書類を年金事務所に提出すると完了になり、次の3つの方法で行えます。
・郵送→事業所の所在地を管轄する年金事務所・事務センター
・窓口→事業所の所在地を管轄する年金事務所
マイナンバーの取り扱いについて
従業員の社会保険や労働保険などの各種保険や税金の手続きを行うために、マイナンバーを提供してもらう場合があります。
近年は入社する際にマイナンバーを提出する会社も増えていますが、マイナンバーは特定個人情報にあたるため取り扱いには注意が必要です。
なお、扶養家族がいる従業員の場合は、本人以外に扶養家族のマイナンバーも必要です。従業員からマイナンバーを提供してもらう際は、利用目的を明らかにすることが法律で定められています。
マイナンバーを提供してもらう方法
マイナンバーを提供してもらう方法は、口頭や番号を転記したメモでの提供は認められず、個人番号確認と本人確認が求められます。
個人番号が確認できる書類は、以下の通りです。
・個人番号通知カード
・住民票
個人番号カードは本人確認書類としても利用できるため、個人番号カードのみで提出が可能です。
個人番号通知カードと住民票の場合は、本人確認として、運転免許証やパスポートなどの身分証明書の提出が必要です。
マイナンバーは特定個人情報にあたるため、情報管理には注意が必要で、マイナンバーの取扱者が個人番号を盗用、第三者へ提供した場合、最大4年以下の懲役または200万円以下の罰金が課されます。
社内のマイナンバー取扱者の限定や、管理システムの導入、活用など、情報漏洩が起こらないよう適切な管理を行いましょう。
社会保険に加入しなくてよい場合
会社を設立すると、必ず社会保険に加入しなければならないというイメージがありますが、例外もあります。
以下の2つの場合は社会保険への加入は不要です。
・パートやアルバイトを雇用する場合
従業員がいない1人社長で役員報酬がゼロの場合
会社を設立し、1人社長で会社から役員報酬を受け取らない場合、社会保険に加入しなくても構いません。
なぜなら無報酬の役員しかいない法人は、社会保険の適用事業所の要件を満たさないためです。報酬がゼロの場合、給与から天引きできないので、年金事務所から加入を断られる場合もあります。
その場合、国民健康保険と国民年金に加入することになります。
パートやアルバイトを雇用する場合
パートやアルバイトの従業員は、社会保険に加入しなくてよい場合があります。
被保険者数が101人未満の企業で働いていて、以下の条件のどれかに該当するパートやアルバイトの従業員です。
・月額賃金が8.8万円を超えない
・雇用期間が2ヶ月以内の見込み
・学生
ただし、2024年10月以降は被保険者数の条件が厳しくなる予定なので、今後の制度改正に注意しておきましょう。
よくある質問|5つご紹介します
会社設立後の社会保険に関するよくある質問を5つ紹介します。
- 会社設立後に社会保険の適用事業所になった日から5日過ぎた場合はどうなりますか?
- 会社設立後に社会保険に加入しました。保険証はいつ届きますか?
- 社員の入社手続きに必要な書類は?
- 社会保険に加入する人の条件は?
- アルバイト・パートでどれぐらい出勤したら社会保険の対象となる?
会社設立後に社会保険の適用事業所になった日から5日過ぎた場合はどうなりますか?
会社設立から5日経過していても遡って加入できます。
必要書類を揃えるのに準備が必要なので、年金事務所に問い合わせて早急に手続きを済ませましょう。
会社設立後に社会保険に加入しました。保険証はいつ届きますか?
協会けんぽの場合、社会保険の手続きが完了してから2週間ほどで保険証が事業主に発送されます。ただし、3月・4月の繁忙期には3週間ほどかかる場合もあります。
保険証が届く前に医療機関で受診する場合は、いったん全額を支払わなければなりません。
あとで申請すれば、自己負担分を除いた医療費が払い戻されます。
社員の入社手続きに必要な書類は?
従業員の入社前に用意しておく書類には以下のようなものがあります。
- 雇用契約書・労働条件通知書
- 扶養控除等申告書
- 健康保険被扶養者異動届・国民年金第3号被保険者届
- 採用通知書(内定通知書)
- 入社誓約書
これらの書類は返信用封筒を添えて郵送し、署名・捺印後、返送してもらいましょう。
社会保険に加入する人の条件は?
社会保険に加入する対象者は、以下のとおりです。
- 正社員や会社の代表者や役員など75歳未満の人
- 70歳未満の以下に該当する人
- 週の労働時間、1ヶ月の労働日数が同様の業務に従事している
- 所定労働時間・所定労働日数が正社員の4分の3以上である
- 以下に該当する短時間労働者
- 従業員101人以上の企業(特定適用事業所)に勤務している※2024年10月から51人以上の企業に変更予定
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- フルタイムと同様に2ヶ月を超える雇用の見込みがある者
- 夜間学生、通信制は除く学生ではない者
- 月額の賃金が8.8万円を超える
アルバイト・パートでどれぐらい出勤したら社会保険の対象となる?
アルバイト・パートは、月の所定労働時間が一般社員の4分の3以上である時に社会保険の対象となります。
また、月の所定労働時間が一般社員の4分の3以上でなくても、次にあてはまる場合は社会保険の加入が必要です。
- 従業員101人以上の企業(特定適用事業所)に勤務している場合は、1週間の所定労働時間が20時間以上
- フルタイムと同様に2ヶ月を超える雇用の見込みがあり、学生ではない(夜間学生、通信制は除く)
- 月額の賃金が8.8万円を超える
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今回の記事では、社会保険の手続きをする理由や加入しないとどうなるのか、社会保険の手続きの条件やポイントをまとめました。
2024年10月には社会保険の適用範囲の拡大も予定されており、特にはじめて会社を設立すると分からないことがよりいっそう増えてくるのではないでしょうか。その際は、状況や必要に応じて顧問税理士に相談してください。
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投稿日: 2024年8月19日 10:26 am
更新日: 2024年10月28日 11:29 pm